認知症になったら困ること
私たちが不動産売買で特に注意を払うのは認知症です。
依頼を受ける時に、意思確認に問題なしと判断して売却活動をスタートしても、いざ売買が決まり司法書士による登記手続きの段階で、意思確認に疑念がある、ということになりますと売買は不成立に終わってしまいます。
お手持ちの不動産を売却して必要な医療費や施設入所費用に充てようとしたい場合や、様々な種類の不動産を、今のうちに相続後に分けやすいように換金化したいと思っても「残念ながら・・・」ということになってしまいます。
そのような事態になってしまったら、アドバイスは二つに限られます。
一つは「相続開始まで塩漬け」です。
相続開始まで財産に手を付けられないので、子供たちが費用を立て替えしたり、必要な治療や施設入所を諦めるということになったら、大変なご苦労が発生し、また不幸なことです。
そこで二つ目として「成年後見人をつける」ということになります。
ただしこの制度の普及が著しく低いのには理由があります。
成年後見が普及しない理由
この成年後見制度は2000年に始まりましたが、使い勝手の悪さ、かかる費用の多さによって普及率が著しく低いまま推移しています。
国内には認知症の人は約600万人いると推計されています。
しかし成年後見の利用者については2021年末時点で計約24万人、4%程度の利用率という状態です。
今回、法務省から法制審議会に改正を諮問されたのも、使い勝手の悪さを改正して普及させたいとの考えからです。
現在の成年後見制度の使いづらい点は主に次の3つです。
①一度、この制度の利用を始めると、本人が亡くなるまで辞められない
②後見人の途中交代は難しく、最初に決まった人物が継続する
③親族が後見人に就くことが難しい
①については、不動産の売却をして資金化する必要があり成年後見人を付けたとして、売却が終わって目的が果たせても、本人が亡くなるまでやめられません。
成年後見人の報酬は決まりはありませんが、財産額が5千万円以上だと月5~6万円位が多いようです。
不動産売却以外利用場面はなくてもやめられず、亡くなるまで10年あったとしたら、報酬を払い続けて累計が600万円以上になってしまいます。
②については、成年後見人に選定されるのは主に弁護士や司法書士などの専門職ですが、対応が気に入らなくても、相性の悪い場合があっても、ずっとお付き合いが続きます。
③については、親族間の争いごとに結び付きやすく、裁判所は消極的です。
制度開始時は9割が親族でしたが、現在では4割程度に減っています。
仮に親族が成年後見人になれたとしても、法定後見監督人として専門家も併せて選定されることがあります。この場合も、報酬が発生します。
普及率の低さを見ると、結局のところ、兄弟で費用を出し合いながら、亡くなるまで塩漬けというケースが多いのかも知れません。
これからどう変わるのか
これらが普及しない要因であると見て、今回の改正でつ次の3点を骨子として諮問されています。
◇本人にとって必要な時に、必要な範囲でのみ利用できる制度とするべき
◇すでに成年後見制度を利用している人について、一定期間ごとに本当に後見制度が必要な状態か、見直す機会を設けるべき
◇柔軟に後見人を交代できるようにするべき
2024年から2027年が諮問期間とのことで、その後法制化されれば利用者が増えることは確実です。
まだ認知症にはなっていない、なっていても軽度である、という方で、改正されるのを待つのも不安、という場合は、任意後見制度や家族信託なども予防措置としてご検討頂ければ良いと思います。
すまいる情報東京 代表取締役社長
公認不動産コンサルティングマスター
竹内 健二
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