相続に関する民法の規定を改正する法律が2018年7月6日に成立し、配偶者居住権の規定が創設されました。

施行日は現在のところ未定ですが、遅くとも2020年7月12日までには施行されることになっています。

 

配偶者居住権は相続開始で当然に生じる権利ではなく、権利を取得するためには、遺言や遺産分割によって権利を与えられなければなりません。

配偶者に配偶者居住権を取得させたいと思う場合は、その旨を記載した遺言書を残します。

遺言がない場合でも、遺産分割によって取得することができますが、遺言のほうが明確ではないかと思います。

 

配偶者居住権

配偶者居住権とは、被相続人(仮に亡夫)の妻が相続開始時に亡夫の持ち家に住んでいた場合、相続開始後にその家を他の相続人等が取得しても、被相続人の配偶者が引き続き無償で居住したり、人に貸して家賃収入を得たりすることができるとする権利のことです。

 

こんな殺伐とした相続のケース

相続人は妻と子供二人、法定相続ですと、妻2分の1、子供が各々4分の1になります。

自宅の相続税評価額が3000万円、預貯金が2000万円、合計5000万円とします。

妻が自宅を相続したい場合、2分の1の相続分は2500万円ですから、500万円分足りません。

子に500万円払って自宅を相続する、しかも預貯金の2000万円は全て子供、というような、なんとも殺伐としたケースです。

 

実際に有りうるケースだからこそ、法制化された訳ですが、親子の折り合いや、子の配偶者との折り合いは千差万別、再婚の場合などもあり、法制化する必要があったのだと思います。

 

改正後はどうなるのか

配偶者居住権は、権利の価格を算定しなければせなりませんが、仮に評価額の半分の1500万円とします。

妻の相続分は2500万円ですから、配偶者居住権1500万円と預貯金1000万円ということになります。

自宅は配偶者居住権を差し引いた、配偶者居住権負担付の所有権1500万円を子供が相続します。

 

改正前は自宅に住み続けるために500万円必要で預貯金は0だったのが、自宅に生涯住み続けられ、預貯金も1000万円相続できるようになりす。

 

法定相続分の改正のほうが良かった?

相続財産の中には、亡夫が親から引き継いだ分もあれば、独身時代に作った資産もあります。例えば自宅が親の代から住んでいる家の場合です。

 

一方、夫婦になってから家を買ったり、家計をやり繰りして作った預貯金もあります。法定相続の割合というのは、これらの内容は全く考慮せず決まっています。

 

ほとんどが夫婦になってから築いた資産という場合、子供は養育のために資産を使いこそすれ、築くのに貢献したとは言えないでしょう。

それでも子供に2分の1となっては、資産の総額によっては、妻が泣きを見ることにもなりかねません。

 

本来は、こんなとって付けたような制度にせずに配偶者が全部相続する、というようにして、両親が亡くなって初めて子が相続するのが、本来の姿だったのではないかと思うところです。

 

新制度には新たな問題も

今回の例で見ると、妻が自宅の居住権1500万円と預貯金1000万円、子供①が負担付き所有権1250万円、子供②が預貯金1000万円と負担付き所有権250万円という分け方になった場合、子供①は売ることもできない不動産の権利だけで、預貯金1000万円の子供②と争いが生じるかもしれません。

 

また妻が最近再婚したばかりの配偶者の場合、配偶者居住権を主張すると、血筋では他人である子供たちは面白くない、という場面も想定されます。

 

 

たとえ二度目の相続のときに相続税で若干不利になっても、遺言書が無い場合や、自宅が亡くなった方のものの場合、配偶者に全部か、遺産配分は配偶者に任せるというのが、丸く収まりやすいやり方だというのが、長年この問題に関わってきた私の実感です。
(竹内)