先日、福島県の郡山に企業研修に行って参りました。
帰りに是非訪ねてみたいと思っていた薄皮饅頭の老舗「柏屋」さんに立寄りました。有名なのでご存知の方も多いと思いますが、児童詩集を50年近く出している饅頭屋さんです。
なぜ立寄りたかったのかと言いますと、こちらのお店の会社方針が「代々初代」ということを随分と前に教えていただいていたからです。経営者が代わるのは、会社として一番つらい、倒産してもおかしくない時期にしているそうです。先の戦争が終了して材料の砂糖や小豆が全く入ってこない時、大洪水で倉庫が全滅して饅頭を作ることも売ることも出来ない時、そんなタイミングで経営者を変える話を聞き、大変感銘を受け私たちの会社にとっても大いに示唆を受けました。
代々初代のことで思い出すお取引があります。
数年前、90歳のピアニストのお家を売却するお世話をしました。戦前、音大を主席で卒業した方で、その後有名な歌手の伴奏などもしていたそうです。家にはグランドピアノ2台、モーツァルトのレコードや譜面が多数ありました。奥様の故郷でのんびり過ごそうと思っていた矢先、奥様を亡くされ、お子さんはいませんでしたので、それからは一人住まい、今回医療老人ホームへ入る資金を捻出するための売却でした。
ホームの三畳ほどの部屋ではピアノをはじめほとんど物は持っていけません。奥様と50年近く2人で暮らした家を処分する、ピアノも他のものも。ことは急を要しますが、人が生きてきた痕跡を処分する、その気持ちを考えると、厳しいアドバイスも萎えがちになりました。
その時「代々初代」という言葉が浮かんできました。毎日が生まれ変わること、生まれたときの裸一つで“終演”に向かってゆくこと、私の内面的には祝福すべきこと、という納得のさせ方でお世話し、お客様にはとても喜ばれ、私も救われた気持ちになりました。
製造メーカーではない私たちの場合は物理的な危機が訪れる機会は少ないかもしれません。では私たちの仕事にとって一番大事なことは何かと考えますと、それは「人の気持ち」が相手であることだと思います。毎日変わる「お客様の事情」「気持ち」「希望や夢」に敏感になって対応することです。
私たちは、手馴れた仕事に留まることなく、毎日が初代の気持ちで対応できるように目指していきたいと思います。今までのご縁を大切にしつつ、以前とご事情も変わっているであろうお客様と、よく話し込み、お役に立っていきます。
ぜひ、ついでの折でも私共のお店にお立寄り下さい。そしてざっくばらんに、貴方様のこれからのご希望を伺いたいと願っています。
竹内 健二