働き盛りで、若年性認知症と診断されることは本人も家族も、大変なショックを受け、親しい人を忘れてしまう恐怖、また逆に忘れられてしまう恐怖も重くのしかかってくると聞きます。

15年前にご自宅をお世話したWさんの奥様から、自宅のご売却の相談を受けました。

事情をお聞きすると、家族に認知症の方がいて症状が進んでいるので、この先の費用や相続のことまで考えて手許資金を確保しておきたいとのことでした。

 

てっきりご夫婦どちらかの親御さんが認知症になったものと思い、早合点してしまいましたが、よくお話をお聞きすると50代のご主人が若年性認知症と診断され、すでに数年経過していて、仕事も辞められていることが分かりました。

だいぶ前から物忘れが多くなっていたそうですが、働き盛りで忙しいせいだと本人も言い、家族もそう思っていたとのこと、その間に病状が進行したようでした。

奥様の実家が近くにあるので、幸い住む所には困りませんが、自分の親も軽度の認知症で、いずれ同居して介護をする覚悟をしていたので同居を早め、ご主人に入ってもらう施設の目途をつけているとのことでした。

 

 

不動産の売却をするための判断能力が不十分ですと、不動産の売買はできません。

それは私たち不動産業者が「まあ大丈夫だろう」と判断するものではなく、多くの場合は登記を行う司法書士が、色々と質問して本人の意思で売却するのか、しっかりと確認します。

その受け答えが不明確ですと、本人の意思能力に問題あり、として取扱い不可となります。

では、直接買い手と登記すればよいかと言いますと、私共も、後日「あの時は意思能力が無かったのに売ってしまった」と他の相続人や関係者から訴えられたり、買い手から損害賠償を要求されたりする恐れがありますので、関わることはできないのです。

 

そのようなお話をして、まずは当社でご紹介した司法書士に面談をしてもらいました。

その結果、やはり記憶障害がありと思われ、病院の診断書も見せていただいて、成年後見制度で家庭裁判所の審判により後見人を付けなくては、売却手続きは出来ないという結論に至りました。

 

 

奥様には、診断書があればフリーパスで後見人が付けられるわけではなく、当時は審判に半年から1年はかかるかもしれないことをお伝えし、手続きは面談していただいた司法書士にお願いすることになりました。

 

約1年後に、やっと審判が下りて、奥様が後見人に選ばれ、売却活動がスタートできる状態になりました。

 

ただ、本当に今売ってしまっていいものか、奥様とじっくり話し合いました。

介護保険や障害者年金については、よくお調べになったか、ご家族の総意か、そして、ご主人が施設から外泊で戻ってきたときに、大黒柱として家族のために買った家が無くなっていることで精神に影響はないか、などについてでした。

 

それらの事をクリアしてスタートしたところ、割と早めに買い手が現れました。

裁判所で売却の許可をもらうため、契約書案や価格が適正である証明に査定書を用意し、無事ご契約となりました。

以前検討していた施設はいったん諦めたのですが、運よく同じところに入所できることになりました。

良い薬と良いケア仲間に恵まれることを祈るばかりです。

 

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成年後見のほかに、任意後見は、本人に十分な判断能力があるうちに、将来判断能力が低下した時点の利用を考えて、あらかじめ自ら選んだ代理人(任意後見人)を準備しておくことが出来、委任する契約内容も自由度が高いのが特徴です。