不動産の仕事経験28年を振り返ると、おひとり住まいの方のお世話は意外に多く、様々な人生のシーンを共有させて頂きました。

昨年お世話した方は、お子さんがみな独立し、お母様と同居していた70歳の女性の方。お母様が亡くなり、ひとりになってしまったので、子供の近くに住みたい、と家を探すことになりました。でも、前の家から50km以上離れた土地には、馴染みもない、子ども以外は知り合いもいない。なかなか「これは」と納得できる家が見つからず、2ヶ月が過ぎました。

ある時、ふっと私の頭の中に気づいたことがありました。亡くなったお母様の魂が戻って来やすい家を探してみよう。前の家でお母様が生前気に入っていた眺めに似た家を探すことにしたのです。

私が紹介したマンションのドアを開けると、お客様はまっすぐバルコニーまで歩いて行き、サッシを開けました。さーっと気持ちの良い一陣の風が私達の顔を撫ぜました。「ここにします」と一瞬で決まりました。
「お母さん、良かったね。あんなに気に入っていた風景にそっくりだよ。緑の丘があって、走る電車が見えて、桜がいっぱい植わっていて・・・。それも前と同じ7階よ。」その場で空に語りかけていました。その瞬間、その方はひとりではなくなったのです。

高齢化、少子化が進み、これからも「ひとり」が増えると言われています。私達は、物理的に「ひとり」の状態を変えることはできません。でも、何かと、誰かと「つながっている」という気持ちになれれば、けっしてひとりでも孤独ではない場合が多いでしょう。

これからも、私も欠片のひとつとして、つながりの一員となり、この仕事をしていきたいと思います。はたして、どんな壷になるのか、それがとても楽しみでもあります。

竹内 健二